昨今マスコミを賑わしている「NHKから国民を守る党」で注目を浴びるNHKの実態を、長い間NHKを見つめ続けてきた川本裕司氏が、現実に起こった事件やNHK関係者から得られた様々な証言から白日のもとに晒した貴重な資料です。

NHKの本質的な問題は、「NHKから国民を守る党」が主張している強制的な受信料徴収の話ではありません。
NHKの放送が本当に公共性があり、公平公正であるのかという点が問題なのです。
NHKはこれまでに何度もこの点を疑われるような行動をしてきた前歴があり、安倍政権になって以降、その傾向は隠しようがないほどに顕著になっています。
多くの識者に、「NHKのニュース番組だけを見ていると日本で何が起こっているか全く分からない。」と言わしめるほどに、報道の質の低下が著しいのです。
他の追従を許さない圧倒的な取材力を持ちながらこの体たらくは、一体何に起因しているのでしょうか?
NHKという組織が、なぜ公共性、公平公正、不偏不党を保てないかはその組織の仕組みを知れば自ずと明らかでしょう。
(1) NHKの最高意思決定機関は経営委員会であるが、その委員は時の総理大臣によって任命される。
(2) NHKのトップ会長は経営委員会で選ばれる。そして会長は運営の全権を持つ。
(3) NHKの予算の認可は時の政権に握られている。
要するに時の総理大臣がNHKを完全に支配することができる仕組みになっているわけで、NHKが官邸の意向を無視して公平公正な報道をすることは実質的に不可能なのです。
だからこそ現実に異常な報道姿勢が今続いているわけです。
それでも安倍政権が誕生するまでは比較的抑制的で、ニュース番組だけでなくドキュメンタリー番組でも政治的、歴史的問題に踏み込んだ報道も見られました。
しかし安倍政権が誕生するや否や、国会でも問題になっている法制に関する報道などが減少して行きました。ドキュメンタリー番組は政治色のないものが主流を占めるようになり、当たり障りのない番組ばかりになって行きました。
特に衝撃的だったのはNHKの良心のバロメーターでもあった「クローズアップ現代」の国谷裕子さんの降板でした。現場サイドは必死の抵抗をしたものの、上層部によって強行されました。それも菅官房長官出演後の出来事で、自分の思い通りの番組にならなかった報復であることは誰の目にも明らかでした。
その後も森友問題の報道規制、加計学園問題で現場がいち早く前川前文部省事務次官のインタビューを収録しながら上層部の指示によって放送されなかった問題などが続きました。
内部告発で、上層部から政権にダメージを与えるような重大な出来事はトップニュースで伝えるなという御達しがあったことが明るみに出ています。
PKO日報問題、森友、加計問題などのNHKの報道を、民放や新聞報道と比較してみればそれが真実であったことがはっきりと分かります。
そして本書は今や知る人ぞ知る有名人となったNHKの岩田明子氏についても言及しています。安倍政権の代弁者とも言われる彼女の存在ほど、不偏不党、公平公正を標榜するNHKにふさわしくない人物はいないと言えるでしょう。彼女こそNHKの劣化、変容を象徴するにふさわしい人物でしょう。
このようにNHKは一歩間違えれば時の政権のプロパガンダに利用され、国を誤った方向に進ませる手助けをすることにつながりかねない脆弱性を持っています。
NHKの国への依存度を極力小さくするような制度改革が喫緊の課題だと思います。それはスクランブル化だとか受信料の強制徴収よりはるかに優先度が高い、基本的な解決すべき問題だと思います。