民主主義の死に方

今この瞬間の日本にもそのまま当てはまる、実にタイムリーかつ的確な分析がなされた珠玉の名著です。
2016年に誕生したトランプ政権に触発された著者たちが、かつてない危機感から世に送り出した警世の書です。

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近年、世界はかつてないほど民主主義が危機に瀕しています。
民主主義発祥の地である西欧においても、極右政党が躍進し、政権を狙うほどにまでなっています。

このような潮流は何故起こったのか?
民主主義がどのように合法的にたやすく破壊されるのかを、過去の様々な独裁政権誕生を例示しながら分析しています。

独裁者には4つの行動パターンが存在すると著者は言います。

ゲームの民主主義的ルールを言葉や行動で拒否しようとする。
対立相手の正当性を否定する。
暴力を許容・促進する。
対立相手(メディアを含む)の市民的自由を率先して奪おうとする。

これを反民主主義的な政治家を見抜くための「リトマス試験紙」と名付けています。そしてこれらの基準のどれか一つにでも当てはまる政治家がいたら注意が必要だと警告しています。
ちなみにトランプ大統領は4つ全てに当てはまる、民主主義にとって非常に危険な人物だと言及しているのです。

日本に当てはめてみると、安倍政権も全ての基準に当てはまっていますね。

古いタイプの独裁者はあからさまな軍事クーデターで政権を奪取するパターンだったわけですが、新しい独裁者は違います。

多くの場合、自ら危機を作り出すのです。
そして本来であれば非難の対象となる様々な問題行動から民衆の目を逸らせ、いわゆる「旗の下への結集」効果で一気に支持率を高めて独裁制に移行してしまうのです。

ドイツのヒトラー、フィリピンのマルコス大統領、プーチン、トルコのエルドアン、ペルーのフジモリなどなど、、、

危機の種類は様々で、主として外敵を作り出すことが主流のようです。
最近ではテロ、難民などが代表的な例でしょう。

日本では北朝鮮が安倍政権の大切な外敵だったわけですが、その脅威を使えなくなった昨今では代わりに韓国を脅威に育て上げることに熱心です。

民主主義は突然失われるのではなく、静かに国民が気付かないうちに少しずつ進行していきます。
その手口の代表例が

司法機関、法執行機関、諜報機関、税務機関、規制当局を抱き込む
裁判所を支配する
コントローラブルなメディアを手に入れる
敵対する相手を逮捕、訴訟、罰金に持ち込み欠場させる
敵対する相手の資金源を断つ
批判的な文化人を抑圧する
選挙区など選挙ルールを変更し支配を確実にする
危機を理由にあらゆる措置の正当化を行う

などで、これらの一部は現在日本でも進行中の事柄です。

それではどうしたら民主主義の崩壊を防ぐことができるのでしょうか?
残念ながらそれに対する明確な答えはありません。

民主主義とはいうものの民衆には全く期待できません。
民衆は独裁者の扇動に簡単に乗ってしまいます。真実が見える人々は一割にも満たないでしょう。民衆は実に簡単にポピュリストに騙されてしまうのです。

今まで民主主義が守られてきた国々は、別段その国の民衆が賢かったからではありません。見識のある政治家からなる政党組織が、危険人物が表舞台に登場することを防いでいたのです。
ところが政党内、あるいは政党間で「相互的寛容」と「自制心」が失われ、極端な二極化が起こることによって勝敗だけが目的化して見識が失われ、危険人物の表舞台への登場を簡単に許してしまう状況になってしまったのです。

この現象はアメリカだけでなく日本でも起きました。
小泉政権が抵抗勢力を一掃するという、まさにポピュリズムそのものの行動で、深く広い見識を持った重鎮達を放逐してしまったのです。
その上で民主主義とは対極にある人物を官房長官に抜擢するという過ちを犯してしまったのです。
ここから日本の民主主義は静かに、しかし着実急速に壊れ始めたのです。

この状況を回復するのは相当に難しいことです。
メディアはすでにかなりコントロールされており、それによって世論もコントロールされています。
したがって選挙でこの状況を打破することは相当に困難でしょう。

政党の自浄作用に期待したいところですが、すでにまともな政治家の大部分は放逐されていて弱体化してしまいました。野党も近視眼的かつ狭量な考えが主流を占め、大局を見据えた大同団結からは程遠い現状で政権交代にはあまりにも遠いと言わざるを得ません。

結局のところ、また痛い目を見て国民が気付くまで、事態は動かない可能性が高いと思われます。
人類は一部の人たちが夢見るほど賢く寛容で自制心に富んだ種ではありません。
利己的で欲望にギラギラした野蛮な種に過ぎないのではないかと、歴史が雄弁に物語っているように思えます。

最近の世界、そして日本の現状を見るとネガティブな思考に覆われてしまいます。
夢物語に過ぎないかもしれませんが、寛容で自制心に富んだ、本当に美しい世界が実現することを願って止みません。