日本人の危機感の無さには本当に呆れるばかりだ。そして物事を論理的に洞察する習慣がなく、非常に大雑把で脈絡がなく直感的にしか捉えられない。
安全保障というとすぐに軍備の強化だけに向かおうとする。攻撃は外敵による武力によるものだけと勘違いしている。単細胞の最たるものだ。安全保障を点でしか捉えていない。これは日本政府の伝統的な特徴でもある。政策にグランドプランが存在しない。全てが場当たり的で有機的な繋がりのないバラバラの政策ばかりなのである。だから政策に持続性がなく当然効果もない無駄なものばかりになる。
国民の命と暮らしを守る安全保障は何も外敵による武力攻撃だけが対象ではない。
経済的な目に見えない静かな攻撃が日本に降り注いでいる。その中で人間にとって最も重大なものは食に関わるものである。命に直結するという点で、武力攻撃と実質変わらない。

食の安全保障の中核をなすものは食料自給率である。これは古今東西の為政者や識者が声を揃えて、「食料を自給できない国は独立国ではない」と言っていることをみても、多少の知恵を持った国であれば当然の常識であろう。食料自給率が確保されて初めて国として次のステップに進めるのである。さもなければ国自体が傾いてしまう。

それでは日本はどうなのかを見てみると慄然としてしまう状況であることが分かる。
簡単なところでカロリーベースの食料自給率を見ると、2020年度でわずか37.17%という驚くべき数字である。先進各国と比べても飛び抜けて低い数字である。しかもこれはあくまでも表面的な話で、実際には種、肥料の原料、飼料、鶏のヒナなどはほとんど輸入に頼っている状態で、これを考慮した実際の食料自給率は10%を割り込むのではないかと試算されている。例えば国民の多くが、野菜は100%近く国産と思っている様だが、その野菜の栽培に必要な種の90%は輸入なのである。

今世界では温暖化による地球規模の異常気象が頻発し、農作物の大幅な減収が予測されている。さらにウクライナ戦争が小麦の流通量を激減させ、これに追い打ちをかける状況である。これに対する日本政府の対応がこれまたとんでもなく頓珍漢な軍備増強一択という方向に突き進んで、日本を食糧危機以外に戦争に巻き込まれる事態に追い込もうとしている。鈴木宣弘教授の言うように、食糧危機に襲われた時にオスプレイやF35戦闘機を齧って飢えを凌ぐことはできないのである。

日本政府がとった政策は食料自給率の確保ではなく、防衛費の倍増なのである。また兵器なのだ。旧日本軍を思い出させる行動にはため息しか出ない。食料補給を軽視したために日本軍戦死者の多くは飢えで死んだのだ。日本政府の考え方はいまだに本末転倒のままなのである。飢えればどんなに大量の最先端兵器を揃えていても、それを扱う人間がいなくなってしまうのである。ただでさえ今の日本は人口減少社会となり、自衛隊員の数も減少傾向にある。それであるのに兵器の数だけが増えていく。既にもう見当違いな施策を行なっているのである。

日本の様な遅れた国家と違って、賢い先進各国の食糧に対する取り組みは綿密である。
特にアメリカは食料を一種の武器と考えており、食料供給をコントロールすることによって他国を自在にコントロールするという戦略を持って取り組んでいる。
従ってアメリカの国内農業に対する保護政策は徹底している。まあ言ってみれば農業は軍需産業とも言える側面がある。論より証拠、貿易自由化協定などとセットで海外の農業を潰すために極端に安く農産物を輸出するが、その差額を全額補填するために、なんと農業への支援額(補助金)は多い年で穀物3品目だけでも約1兆円にもなる。
コロナ禍でのアメリカ国内の農家収入が減少した時にも、総額3.3兆円もの直接給付を行って保護している。更に3,300億円を支出して農家から余剰在庫を買い上げて困窮世帯に配布するという政策も行なっている。無策の日本政府と比較するとただただため息が出るばかりである。

これからは世界は食糧の争奪戦になることは必至だ。金さえ出せばなんでも買えると思っていた能天気な日本は、今やその金さえもなくなり、世界市場で、様々な製品の原材料だけでなく食糧でさえも買い負けが発生する状況である。さらに事態が悪化すれば、生産国が食糧の輸出を禁止する措置を取るのは当然の成り行きである。現にインドは小麦の輸出を禁止した。買いたくても市場から食料がなくなることも考えられる。出回ったとしても国力が低下した日本では購入できなくなるだろう。そんな時にどうするのか?
いまだに日本政府は三食芋を食べれば凌げるとかなんとか、平和なものである。どうやら今までの日本の政権では軌道修正は困難な様だ。これも無能な政権を選択してきた国民の政治的怠惰が招いた結果だろう。

インバウンド需要が活況を呈しているとメディアで喧伝し、それに悪ノリする形で観光立国などととんでもない見当違いをぶち上げる政府。これらが日本が貧しくなったことの証であるのにこの姿勢である。愚かな国は、賢い先進各国に操られ、身包み剥がれて奴隷の様に細々と生きて行くしかないのかもしれない。これが現代版植民地支配なのだろうなと思う。

元農林水産省の官僚で東京大学教授の鈴木宣弘氏の長年にわたる警告は貴重である。これに耳を傾けない政府や国民にはほとほと愛想が尽きた。一人でも多くの国民がこの警告に耳を傾け、この国の危機が奇跡的に回避されることを祈るばかりである。

以下に参考になる何冊かの本を紹介しておく。書籍という、多くの人が目にしない目立たないところに、主要メディアが伝えない重大な情報があることが分かるだろう。