株式会社アメリカの日本解体計画

飽くなき金への欲望に取り憑かれた怪物たちの住処アメリカによる理不尽、無慈悲な暴挙を追求し続ける堤未果さんの講演録を、加筆訂正して出版された「株式会社アメリカの日本解体計画」は、講演会用のものらしく、要点を簡潔に、しかし広範囲に渡って分かりやすく解説している。
彼女の著書の大部分は読んだ私でも、今までに得た知識や考えの部分的な整理に役立つものだ。細々と内容を説明するよりも何よりも、実際に多くの人が直接本を手に取って読んで考えてくれた方が遥かにインパクトが大きいと思う。

ただ一点だけ是非言及したいものがある。

小泉政権から突然始まる新自由主義の嵐に関連するものである。これが日本を根底から変えてしまったことは心ある多くの知識人の等しく認識するところだろう。そしてその嵐は収まるどころかますます激しく吹き荒れ、日本を茶褐色の荒野にしつつある。
ではなぜ新自由主義が突然政府によって積極的に進められる様になったのだろう?
その謎の一部が本書で明らかにされている。
小泉政権時に金融大臣、経産大臣、郵政民営化担当大臣という要職を歴任したあの有名人、竹中平蔵氏が、実はアメリカの金融界から司令を受けていた証拠が、2005年8月の参議院特別委員会で当時の民主党櫻井充参議院議員から示されたのである。
その証拠とは、ゴールドマン・サックスのロバート・ゼーリック副会長の竹中平蔵氏への手紙である。日本国民の大切な金融資産である郵便貯金や簡易保険が、アメリカの貪欲な巨大金融企業のターゲットになったことがあからさまに記されていた。
手紙の内容はあまりにも衝撃的で、メディアにとっては史上最大のスクープとなるものであった。ところがである。報道の自由度ランキングで世界的に有名な日本のメディアは早速「報道しない自由」を思う存分発揮して、この件はもちろん、竹中平蔵氏の竹の字一文字でさえ報道しなかったのである。
貪欲なアメリカの巨大金融組織の狙いは郵政民営化だけではない。これまた巨大な金融資産が眠る農協がターゲットだ。その使命を帯びているのが郵政民営化で手柄を立てた小泉純一郎の息子、小泉進次郎である。現在も農業改革と称して農協の弱体化に向けて活動中である。首相になったタイミングで農協解体に拍車がかかるのではないだろうか?この動きもきっと日本のメディアが明らかにすることはないだろう。

この国の病理はメディアの限りない劣化である。完全に政府の広報機関と化したメディアもあるが、如何にもジャーナリズムを貫き、不偏不党で真実の報道に徹しているふりをする、いわゆる左翼系大手メディアでも、最も大切な情報は報道しないという、これまたいわゆる「報道しない自由」を堂々と行使し続けている。
この様なメディアの姿勢が最も顕著に現れたのが第二次安倍政権下であった。あの様な歴史的に見て劣悪な政治が、民主主義下で異常なほど長期間続いたのも、ほとんど全てのメディアが全力で「報道しない自由」を行使したからである。
特にNHKの報道は酷かった。国会中継を見ている人であれば一目でわかるほど露骨に、政権に不都合な場面はカットされ、都合の良い場面をつなぎ合わせて報道するという、報道機関としての責任も誇りもかなぐり捨てた姿勢にはこの世の終わりかと愕然としたものである。
更に報道現場への上層部からの指示内容が共産党議員によってすっぱ抜かれたにも関わらず居直り続けたのである。

この様な根本的な日本メディアの姿勢は今も間違いなく続いているはずで、一般の人たちに最も分かりやすい最近の例では、ジャニー喜多川氏による異常な長期広範囲に渡る性加害を大手メディアが全く報道しなかったことでも明らかだろう。メディアが企業体であることが本質的な弱点で、組織を守るためには不正にも目を瞑るのである。食品添加物の危険性や農薬の危険性についても滅多に報道されることはない。これもスポンサーに対する忖度と考えられる。人々の健康よりも自身の存続が大切なのである。

従ってメディアを利用する人はメディアが必ずしも正しいことを全て伝えると思ってはいけない。短絡的にメディアの報道を受け入れないことだ。他の方法で別の視点から物事を見る習慣を身につけるべきだろう。そしてなるべく一次情報に近いものを探す様にしよう。ニュース番組で切り取られた情報は最も危険なものだ。また大手メディアが一斉に同じことを連日の様に伝え始めたら注意しよう。その時には報道されていない何か重要なことがないかに注意を払おう。インターネットで国会でどんなことが議論され決定されつつあるかを調べよう。国民の多くが知らないうちに国民生活に直結する様な重要な法案が可決されているかもしれない。

人々の意識が高まればいい加減な報道をしているメディアは淘汰される。本来は政治だって同じなのだ。人々の意識が高く政治を監視する目が多くなれば、政治だって変わるだろう。どんな失政をしても国民の支持が変わらないのであれば政治が変わるはずがない。当たり前のことだ。だから日本はずっと全く変わらないのだ。いや、どんどん酷くなっている。
日本が日本政府自身によってアメリカに切り売りされている。こんな理不尽なことが長年堂々と罷り通っている日本という国は、本当に独立国家と呼べるのだろうか?