福島第一原発事故から既に8年を経過し、未だに全く収束のめどが立たない状態で、国や東京電力は見せかけの収拾を図るべく、実現性のない廃炉計画や無理な避難解除を進めています。
国民は国民で、いつものようにあの恐ろしい原発事故がまるでなかったかのような能天気さでお気楽な日常を送っています。そしてかなり多数の国民が原発の再稼働を再び後押しし始めているのには、正直呆れ果ててしまうのです。
叶わない夢でしょうが、一人でも多くの人たちが、これから紹介するような日本のメディアが絶対に伝えることのない原発の様々な問題点に関する議論を知り、自らの頭で考えて正しい行動をして欲しいと心から願わずにはいられません。

この本は2013年3月11,12日の両日に、ニューヨーク医学アカデミーで開催されたシンポジウムの研究結果をまとめた書籍の翻訳です。世界各国から集まった専門家の様々な角度からの意見や研究結果がまとめられています。
「福島の災害は終わっていないし、今後、数千年たっても収束することはない。日本は広い範囲で放射性降下物に覆われ、その毒性は何十万年も残るだろう。簡単に”除染”できるものではなく、食物や人間や動物を蝕んでいく。」
「この事故は医学的意味においてチェルノブイリの大惨事に匹敵する。」
「ニューヨーク科学アカデミーが発表した2009年の報告書によると、既に100万人以上の人々がこの事故の直接的な影響で死亡している。」
「ヨーロッパの多くの地域が、今後何百年も放射能に晒されるのだ。同じことが日本でも起こっている。」
原発推進派関係者からは絶対に聞けないような衝撃的な事態が次々と報告されています。
そして私にとって最も衝撃的だった新しい視点は次に述べる記述でした。
「セシウム137は天然に存在するカリウム40の約1200万倍の放射能を持つ。」
平均して同じ強さの放射能といっても、薄く存在する放射能と局在する強烈な放射能の生物に与える影響は全く異なる。体内に取り込まれたセシウム137に近接する細胞は甚大な損傷を被る。
「現在の放射能被曝基準は、広く拡散している天然の放射線が与える影響と、高度に濃縮された放射能源が与える影響を、放出されるエネルギー総量が同一である限り同じと見なすのだ。もし大きなバケツに入った温かいお湯と、燃えている石炭の小さな塊のエネルギー総量が同じなら、温かいお湯を飲むことには、燃えている石炭を飲み下すのと同じ生物的影響があるのだろうか?」
原発推進派が人々を騙す手口の代表は、自然界にも放射能が存在していてそれと比較すれば原発事故で増加した放射能は無視できるほどわずかなものだという悪意に満ちたデマが存在します。人命にかかわる重大な事実を自分たちの利益を守るために誤魔化して伝えるほど非人間的な行為はありません。
「原子力発電プロジェクトは、公的支援を行う用意のある国によって支えられているが、それらは利権や汚職絡みで進められることも多い」
これはフランスの原子力の専門家の報告書で指摘された言葉です。
日本も例外でないことはもはや自明です。地球や人類、国、国民のためでなく、ほんの一握りの人間たちの利益のためだけに原発は強引に進められているのです。
その最たる例は、大橋弘忠東大教授の
「格納容器は壊れないしプルトニウムは飲んでも大丈夫」
というとんでもないデマ発言です。
東大というとそれだけで多くの人が信じてしまいがちですが、NHKと同様、自分たちの地位や金のためであれば、いとも簡単に悪魔に心を売る輩が横行しているのです。ですから権威や権力をそのまま信じてはいけません。
特に安倍政権下ではその傾向が顕著で、政府周辺にたむろする多数の官僚、学者、評論家、作家、メディア関係者、大企業、タレント、有名人は自分の利益だけを考えて行動しているのだと思ってほぼ間違いないでしょう。決して国や一般国民のためではないことを肝に銘じるべきでしょう。
それから忘れてはならないことは、2006年12月の国会答弁で安倍首相が原発の安全性を危惧する野党議員の質問に対する答弁で
「全電源喪失はあり得ない」
と断言したわずか4年余りの後に福島第一原発は全電源喪失によりメルトダウンを起こしたという事実です。
これに対して安倍首相はどんな責任の取り方をしたのか?
森友加計その他様々な疑惑に対して一切責任を取ろうとしない我が国の最高責任者、それに対して何の反応もしない我が国の国民、一体全体日本という国は???
そして本書の最後の章ではこれほど不条理な原発推進を始めとする人類の愚行が何故未だに推し進められているのかの根源的原因について述べています。
「常に崇められているのは金だ。誰もがこれ以上ないほど正しいと信じるのはもっと金を稼ぐこと。こうして地球を殺している。地球は危篤状態にある。私たち全員が病みゆく地球のための医師になる必要がある。・・・自分たちの子供を守るにはどうすれば良いのかを真剣に考えることだ。」
日本は原発事故でも子供を守るどころかとんでもないことをしています。
一番放射能に弱い子供たちに地産地消だと称して放射能で汚染された食事を与えたり、食べて応援などという日本独特の精神論で実際の深刻な被害をごまかそうとしたり、許容放射能レベルを引き上げたりと、これが子供を守るべき大人のすることかというようなことを平然と行ってきたし未だに行っているのです。
福島第一原発事故は過去の出来事ではありません。現在進行中の、そして今後何十年、何百年と続く重大な事故なのです。それを見て見ぬ振りをして通り過ぎようとすれば、必ず子供たち、孫たちに辛いツケを回すことになるでしょう。
それを防ぐためにも大人たちがしっかりと真実に向き合い、正しく対処することが必要なのです。